日本のおかしな住民たち 意外と知らない?身近な生き物図鑑 #4 アズマヒキガエル
アズマヒキガエル

ホンシュウジカ 尾長 学名:Cervus nippon centraris

日本には、亜種と3種の外来種を含めると、43種のカエルが生息している。 そんな日本のカエルの中の王様を決めるとしたら、どのカエルが相応しいだろう?
夏になると、池や田んぼで恐ろしい声で鳴いているウシガエル(食用蛙)を想像する方も多いのではないだろうか? 獰猛な性格に、巨大な身体、その特徴的な声は王者に相応しいようにも見えるが、ウシガエルは食用にアメリカから入ってきた外来種である。 しかも、日本の侵略的外来種ワースト100のみならず、世界の侵略的外来種ワースト100にまで選定される程の悪者なのだ! 実際、日本の生態系に多大な悪影響を与えている。 そんな悪の王者のようなウシガエルを日本のカエルの王様にする訳にはいかない。 では、日本固有のカエルで王様に相応しい者は居ないのだろうか?
否!そんなことはない。日本にも巨大で王様に相応しいカエルが居た。 ガマガエルである。ウシガエルに匹敵するサイズ!落ち着いた風格!和の精神が息づくフォルム!
ガマガエルこそ、日本のカエルの王様に相応しいのではないか!? 今回は、ガマガエルことヒキガエルを紹介しよう。

日本のヒキガエルは、ニホンヒキガエル

ガマガエルことヒキガエルにも種類がある。 日本のヒキガエルは、そのまんまだがニホンヒキガエルが代表的だ。 ニホンヒキガエルは近畿地方以西に生息する「ニホンヒキガエル」(そのまんま)と、東日本に生息する「アズマヒキガエル」の2種類の亜種に分かれている。 その違いは目と鼓膜の間がアズマヒキガエルよりニホンヒキガエルのほうが離れていることで判別できるが、殆ど同じような見た目である。 共に水の中ではなく、主に陸上で生活している。 今回紹介しているのはアズマヒキガエルのほうで、静岡の山奥で撮影した。 その姿は迫力満点だ!

落ち着いた動き

 普通、カエルと言えば自慢の脚力でピョンピョン飛び跳ねて逃げて行くイメージがあるが、ヒキガエルは違う。 飛び跳ねることは殆ど無い。と言うより飛ぶことが出来ない。 ノソノソとした動きは遅く、焦った様子も無い。 そしてその余裕の表情を全く変えることは無い。 この態度がまた王者たるゆえんなのだ。

焼き物のような身体

 アズマヒキガエルの体色は個体差があるものの、焦げ茶色や赤褐色のボディの側面に黒と白のラインが特徴的。 そして、その身体には無数のイボがあり、一見気持ち悪く感じるかもしれないが、よく見ると楽茶碗かなにかの焼き物のような雰囲気がある。 釉薬が釜の中で偶然の色を出したような趣があるではないか。

ヒキガエルと言えば、ガマの油

 伝統大道芸の「ガマの油売り」などでも有名なガマの油。 このガマというのは勿論ガマガエル=ヒキガエルのこと。 実はヒキガエルのイボからは、毒のある液体が分泌される。 この毒は皮膚に付くと皮膚炎を引き起こし、口から取り込むと、幻覚作用や吐き気が起こったり、全身が痺れたりと結構恐いことになる猛毒である。 この毒のおかげで、他のカエルのようにピョンピョン飛んで逃げる必要もなく、余裕かましているという訳。 とは言ってもそれを上回る毒の持ち主であるヤマカガシ(山に居る毒蛇)には丸呑みされてしまうようだが。

そして、このイボから出る毒を集めて軟膏にしたのが、ガマの油である!ということを口上に「さあさあお立ち会い〜」と売り歩いたのが「ガマの油」なのだ。 切り傷や火傷に効果のある軟膏ということだが、当時から実際にはヒキガエルの毒を元に作ったものではなく、馬油などが使われていたようだ。 現在ガマの油で有名な茨城の筑波山に売られている「ガマの油」は、ワセリンやハッカ油を使った普通の軟膏である。 しかし、「ガマの油売り」の香具師(やし)による大道芸を楽しんで買ってみる価値はあるではないか。

いわゆる「ガマの油」とは別に、蟾酥(せんそ)という生薬がある。 こちらは正真正銘、毒物であるヒキガエルの毒液を乾燥させて作ったもの。 強心作用や血圧降下作用、胃液分泌抑制作用などが期待できるのだそうだ。 しかし、蟾酥は日本のものではなく、漢方薬である。

身近な存在

 ヒキガエルには山の中に行かなくても出会うことができる。 例えば、都会にある公園や、神社、お寺、住宅地、家の庭先など、人間が生活している空間に普通に現れることがある。 夜行性なので、小雨が降る夜に公園などでゆっくりと動く物を見かけたら、それはヒキガエルかも知れない。

アズマヒキガエル、いかがだろうか?
カエルが苦手な方にはキツいかも知れないが、よく見ると日本人の魂に響くものがあるではないか。 もし見かけたら、車に轢かれないように、そっとしておいてあげよう。 くれぐれも素手で掴まないように。 彼らも日本の住民である。

記事/イラスト/撮影:松端秀明

 
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