日本のおかしな住民たち 意外と知らない?身近な生き物図鑑 #3 ホンシュウジカ
ホンシュウジカ

ホンシュウジカ 尾長 学名:Cervus nippon centraris

日本の野生の生き物と聞いて真っ先に思い出す人も多いのではないだろうか。
山にハイキングに行ったり、林道を車で走ってるとジッとこっちの様子を伺う姿を目にすることがある。 高速道路の「動物注意」の看板にもよく鹿が登場する。 鹿に遭遇すると「あ!シカだ!」と、ついついテンションが上がってしまいがち。 今回は日本人にとってはとても古い付き合いの「鹿」に注目してみよう。

本州に居るからホンシュウジカ

 一言に「鹿」と言っても、世界中に色んな種類の鹿が居る。 立派な角を持つヘラジカやトナカイ、小さい身体が特長のキョン、童話『バンビ』で知られるノロジカ。 どれと比べても、何の特徴もない普通の鹿にしか見えないのが、我らが日本の鹿「ニホンジカ」である。 ポジティブな言い方をするならば、最も鹿らしい「鹿の王道」でもある(日本人だからそう感じるわけだが)。

そして、ニホンジカには日本国内で7種類の亜種がある。 北海道の「エゾジカ」、九州、四国の「キュウシュウジカ」、長崎県対馬の「ツシマジカ」、鹿児島県屋久島の「ヤクシカ」、鹿児島県馬毛島の「マゲジカ」、沖縄県慶良間諸島の「ケラマジカ」、そして本州の「ホンシュウジカ」である。 今回紹介しているのはこの「ホンシュウジカ」。 それぞれの違いは主に体格で、北海道の「エゾジカ」が最大で、屋久島の「ヤクシカ」が最小、「ホンシュウジカ」が中間のサイズである。 奈良公園の鹿を含め、本州で出会うのはこの「ホンシュウジカ」なのだ。

夏毛と冬毛

 鹿を見たときに、白い斑点があるものと、ないものが居る。 これは種類の違いや、雄雌の違いではなく夏毛と冬毛の違いなのだ。 見た目の印象が違うので、ついつい違う種類かと思いがちだが、全く同じ種類である。 白い斑点があるのは夏毛で、ついついオーストリアの童話『バンビ』をイメージしてしまいがちだが、前述のとおりバンビはノロジカなので種類が違う。 そしてこの夏毛、「鹿の子(かのこ)」と呼ばれ、夏の季語にもなっている(鹿自体は秋の季語)。

ツノは毎年生え変わる

 ニホンジカのオスには立派な角がある。 そして、この角は毎年2月頃になると抜け落ちて、初夏から秋にかけてまた新しいものが生えてくるのだ。 秋の発情期にはこの角をガシガシとぶつけ合ってメスを奪い合うのだが、そのときに角が折れたりしても来年にはまた生えて来るというわけだ。 ニホンジカは山に沢山いるので、山の中は抜け落ちた角だらけになりそうな気もするが、抜け落ちた角はすぐに分解され、土に帰るのだそうだ。

鹿にシカトされる?

 誰かに無視されることを「シカトされる」という俗語がある。 これは花札の十月の絵柄である「鹿の十(しかのとお)」から来ているのをご存知だろうか。 花札の「鹿の十」は鹿が横を向いた絵柄なのだが、この絵柄が「鹿がこちらを無視している」ように見えることから、無視をすることを「しかとうする」と言うようになり、それがいつしか略されて「シカトする」という俗語が生まれたのだ。 たしかに、山で鹿に出会うと大体こちらを向いてジッと様子をみているものである。 その鹿が横を向いていると「無視された」ような気持ちになるかも知れない。 もし山で鹿に出会って横を向かれたら是非「シカトするなー!」と言ってみよう。

奈良の鹿は国の天然記念物

 鹿と聞くとすぐに奈良を思い出す人も多いのでは? 奈良のシンボル的存在の鹿は1000年以上前から奈良の町に住んでいる野生動物で、その間ずっと奈良の人々に親しまれてきた。 特に春日大社境内の鹿は「神鹿(しんろく)」として神格化され、江戸時代までは神鹿を殺すと死刑になるという、相当手厚く保護されていた。 その後も手厚く保護され続け、1958年に国の天然記念物に登録されている。 そのためか、山で出会う鹿は近づこうとすると一目散に逃げてしまうが、奈良の鹿は普通に触れることができる。

しかし、近年エアガンやボウガンで撃たれる事件が発生しており、ボウガンの矢が刺さった鹿が死亡してしまった。 酷いことをする輩が居るものだが、これが江戸時代なら犯人は死刑である。

とても美味しい鹿料理

 日本人は縄文時代から鹿を狩って食べてきた。 ということは1万年くらい鹿の肉を食べていることになる。 鹿肉はモミジと呼ばれ、日本人が昔から親しんで食べてきた肉なのだ。 江戸時代までは牛肉は殆ど食べられておらず、イノシシ(ボタン)、ウマ(サクラ)に並び、シカ(モミジ)が食べられてきたのだ。 今でこそスーパーや普通の肉屋で鹿肉に出会うことは少ないものの、山岳地域の旅館や民宿では鹿料理や猪料理が食べられるところも多いので、是非そういうところに足を運んで鹿料理を楽しんでいただきたい。(写真は鹿刺)

ホンシュウジカ、いかがだろうか?
休日にでも鹿が住んでいるようなところに行ってみては? 運が良ければ彼らに出会えるかも知れない。 彼らも日本の住民である。

記事/撮影:松端秀明

 
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