日本のおかしな住民たち 意外と知らない?身近な生き物図鑑 #2 トゲナナフシ
トゲナナフシ

ホンシュウジカ 尾長 学名:Cervus nippon centraris

ナナフシという昆虫をご存知だろうか?
木や草の枝になりきることで外敵から身を守り、小枝にソックリなことで有名な昆虫の種類である。 日本国内にも数種類存在するが、その中に「トゲナナフシ」というのが居る。
これがとても不思議で面白いやつなのだ。

枝になりきる生活

どこかに居ます

 昆虫界ではよくあることだが、擬態によって外敵から身を守る者達がいる。 身体の表面を周辺の植物や岩肌に似せたり、強い昆虫ソックリな見た目になることで、我が身を守るのだ。 このように身を守るために別のものソックリになることを隠蔽擬態という。 逆に、周辺に溶け込んで獲物を捕らえるのを攻撃擬態と言い、周辺の草と同じ色の身体でジッと獲物を待つ、肉食の蜘蛛などがそれにあたる。

 さて、ナナフシだが、全てのナナフシは隠蔽擬態によって草木の枝に化けている。 枝になりきることで、自分の存在自体を隠蔽しているのである。 バッタやカマキリのように、単に緑色をしているだけのようなものは珍しくも無いが、ナナフシの擬態は見事である。 色だけでは無く模様や質感も枝ソックリなうえに、ジッ動かず枝になりきっているのだ。

 ナナフシには、蝶のような羽がある訳でもなく、バッタのように強靭な太腿で飛び跳ねることも出来ない。 もちろん動きも超スローで情けない。 そう、ナナフシの擬態は命懸け。 バレたが最後、逃げ出すことはできないのである。

 そんな、ナナフシの人生(虫生?)を考えると「地味な上に大変だなぁ〜」と思うのである。

枝にしか見えないボディ

 一般的によく知られているナナフシは、枝の先のような細い身体をしていて、細かい擬態のディテールというよりは、細いからそもそも見つかりにくい。 これもなかなか高度な擬態ではあるのだが、トゲナナフシは太いボデイにもかかわらず、枝にソックリなのである。

 トゲナナフシには、その名の通り身体に細かい棘がある。 この棘には毒があるわけでもないし、鋭くて突き刺さるわけでもない。 これも、枝に似せるためのものなのだ。 体色、模様、棘、全てが枝ソックリになるためのもので、足が無ければ誰も虫だとは気づかないであろう。

 試しに合成写真で、足の代わりに葉っぱをつけてみた。 やはり枝にしか見えないのである。

 その高い擬態の技術のせいか、人里にも出現することがあるのに、滅多に見つかることはない。

 

「そこに居ちゃダメでしょ...」ツメの甘いところもあり

 そこまで高い擬態能力を持ちながら、「何故そこに・・・」という場所に出現することがある。 コンクリートの壁やブロック塀、岩の上やガードレールなど・・・木の枝以外の場所で、結構目立ってしまっていることもあるのだ。

 あまりに枝ソックリなので、そんな場所に居ない限り、なかなか見つけることができない。 我々が発見できるのは、彼らのツメの甘さのおかげかも知れない。

捕まったってジタバタしない

 そんな彼ら、外敵に捕まったら一巻の終わりなのだが、指で捕まえてみると全くジタバタしない。 足をピンと広げて身体を反らせ、全く動かなくなってしまうのである。 どうせ逃げ切れないということを理解しているのか、捕まっても枝アピールを決して止めないのである。 ここまでくると、枝に化けるという行為に誇りすら感じてしまうではないか。

最大の謎。レディーばかりのトゲナナフシ

 トゲナナフシには、最大の謎がある。 なんと、メスしか存在しないのである。 つまり、交尾をすることも無く、メスが単独で卵を生むのだ。 そんな、自然界のルールを無視した繁殖があるのか!?と驚かされる。 勿論、同じような性質を持った子供しか生まれない訳で、急激な気候の変化や、伝染病が流行ったりしたら一発全滅である。 枝に化けるのに忙しくて、恋をしている余裕が無いのか、それとも生き物として完成形ということなのだろうか・・・謎である。

 そんな中、更に混乱させることが。 2009年に京都で雄が発見されたのである。 飼育下では1977年に確認されていたものの、自然界ではこれ1匹だけしか発見されていないのである。 勿論、それ以外のことは全く判っておらず、謎は深まるばかりである。

トゲナナフシ、いかがだろうか?
彼ら(彼女ら)を運良く見つけたら、是非そっとしておいてあげよう。 彼らも日本の住民である。

記事/撮影:松端秀明

 
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