日本最高の田舎吊り橋
日本で人気の高い田舎吊り橋 | |
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奈良十津川 | 谷瀬の吊り橋 |
長野南木曽 | 桃介橋 |
徳島祖谷 | 祖谷のかずら橋 |
静岡川千頭 | 夢の吊橋 |
静岡伊東 | 門脇吊橋 |
静岡久野脇 | 久野脇橋 |
前回まで、数回にわたって吊り橋のメッカ静岡県の吊り橋を紹介してきた。
静岡には、美しい景色に細い踏板が印象的な「夢の吊橋」や、伊豆の海の断崖にある人気吊り橋「門脇吊橋」、凄まじい高さと危険が衝撃だった「新逆河内吊橋(無想吊橋)」など、どれも日本でトップクラスの非常に印象的な吊り橋だった。
静岡にはまだまだ紹介していない凄い吊り橋が何本もあるのだが、このままだとずーっと静岡になってしまうので、それはまたの機会に。
今回紹介するのは、奈良の秘境にある田舎吊り橋の最高峰「谷瀬の吊り橋」だ。
あまりにも有名な吊り橋なので、名前くらいは聞いたことがある人も多いのでは?
「ただ有名なだけの観光吊り橋でしょ?」と考えるのは早計というもの。
この吊り橋、高さ、長さ、人気、歴史、景観、それぞれのバランスが「田舎吊り橋」としてとても素晴らしいのである。
それは吊り橋の村にあった
奈良県の最南端に位置する十津川村。 紀伊半島の中央に位置し、和歌山県と三重県のそれぞれ南部に挟まれた山奥にある日本一面積の大きい「村」である。 とてつもなく深い山の合間に集落が点在する十津川村では、くねくねと曲がりくねった林道が交通手段となっている。 「これが国道?」と思うような細くて曲がりくねった道が沢山ある。 そして、あまりの山深さに土砂崩れや崖崩れが多発し、通行止めになることも多い。 近年では2011年の台風で大規模な洪水が発生し、壊滅的な被害が出たことでも知られている。
そんな深い深い山奥の村である。 当然我々の期待は裏切らず、なんと60本以上の吊り橋が存在すると言う。 これは1つの自治体にある吊り橋の数としては日本一である。 観光用のチラシにも「日本一吊り橋が多い村」と書いてあった。 そんな日本一吊り橋の多い十津川村の中でも、最強の人気と知名度を誇るのが今回紹介する「谷瀬の吊り橋」なのだ。
観光スポットでありながら観光吊り橋ではない!
実は観光目的で作られた大吊り橋は日本全国に点在する。 鋼鉄製の頑丈な造りで、主に景観を楽しむことを目的に架けられたいわゆる「観光吊り橋」だ。 もちろん手軽にスリルを味わえ、奇麗な景色や空気を楽しめるという意味では、観光吊橋はとても楽しくて良いものだ。
「谷瀬の吊り橋」は吊り橋自体が人気の観光スポットで、専用駐車場がすぐそばにあったり、お土産屋や民宿も隣接し、吊橋のイラストが入ったキーホルダーや手拭いなどが売られている。
しかし「谷瀬の吊り橋」は観光スポットでありながら、「観光吊り橋」ではないのである。
究極の生活吊り橋
1954年(昭和29年)。 戦後の復興期で、テレビ局が開局し始めた頃。 長年水害に苦しめられた住民は、一戸当たり20万~30万円を出し合い、谷瀬集落と上野地を結ぶ「谷瀬の吊り橋」を総工費約800万円かけて建設したのである。 大学卒業生の初任給が8,000円程度の時代にこれ程の大金を出し合って造られたこの吊り橋は、まさしくザ・キング・オブ・生活吊り橋なのだ。 現在も小学生が毎日この吊り橋をわたって通学し、郵便局員は配達のためにバイクで往来している(住民以外の2輪車での通行は禁止されているので注意)。
本当の名前は「谷瀬橋」?
国道168号線を十津川を右に見ながら南下していくと、遠くにとんでもない長さの吊り橋が見えてくる。
そう、これこそが「谷瀬の吊り橋」である。
長さ297m、高さ54mに及ぶその大きさは、生活吊り橋としては日本一だ。
高さについては、今はダムの堆砂(ダムに塞き止められて砂が溜まる現象)で川底が持ち上げられているのだが、当時は70mの高さがあったという。
さすがは日本一の吊り橋だけあって、辺りは観光客で賑わい、駐車場へ誘導する警備員がお出迎えしてくれる。
駐車場の近くには吊り橋で行われる祭り「揺れ太鼓」のポスターが貼ってあったが、残念ながら取材時には既に開催日を過ぎてしまっていた。
駐車場から歩くとすぐに吊り橋の入り口に到着する。 主塔は以前奥多摩の「むかし道」で見た「道所橋」と同じ金属製。 そして、コンクリートの土台の部分には「谷瀬橋」という表札がある。 「あれ?」と思ったのだが、観光パンフレットを始め多くの表記が「谷瀬の吊り橋」なのに、橋自体に書かれた正式名称?は「谷瀬橋」だった。 しかも「谷瀬の吊り橋」の谷瀬は「たにぜ」と読みがなが振ってあるのに対して、対岸にある平仮名表記の表札は「たにせばし」と濁らない。 これだけの有名克つ人気の吊り橋なのに、名前はあやふやだ。 田舎吊橋の魅力の1つはこういうあやふやさにもあるので、これも含めて愉しもう。
渡る際の注意点。
吊り橋の入り口には安全確認のための係員が常駐していて(シーズン中のみ?)、注意書きの看板が掲げられている。
その注意書きには・・・・
- この橋は、一度に20名以上渡ると危険です。
- 渡橋中は、わざと揺ったり、走ったりしないで下さい。
- 混雑する時は監視員が駐在し、一方通行等の渡橋規制を行いますので、その指示に必ず従ってください。万一、従えない時は、渡橋を拒否します。
- 観光客が、二輪車で橋を渡ることは禁止します。
- この橋は、通学路です。迷惑のないよう安全にお渡りください。
・・・とある。
そう、前述したようにこの橋はあくまで生活吊り橋であり、通学路として使われ、地元の方は2輪車を使って通行したりもしているのだ。
そして気になるのが「20名以上渡ると危険です」の注意書き。 これまで取材したものには5名制限や小さい吊り橋だと1名制限のものもあった。 巨大な吊り橋とは言え、今回は20名以上が危険ということは19人制限ということである。 しかし、ここは観光地。 既にざっと数えただけでも明らかに人数オーバーしている! 「大丈夫かな・・・?」と不安を覚えつつも「まぁ係員が居て何も言っていないので大丈夫か」と思い直し、いざ渡ってみる。
ものすごい揺れ、ものすごい高さ、驚く程気持ち良い空気と景色!
吊り橋の踏板部分は分厚い4枚の木板を敷いた状態で、幅は約80cm程。
寸又峡の細い吊り橋と比べればかなり安定感がある。
頑丈な踏板をしっかりと踏みしめながら進むと、すぐにそれは始まった。
しっかりとした見た目とは裏腹に、かなり揺れるのだ。
大きく開けた十津川の上空を吹く風や、観光客の歩みによってユラユラと揺れ、足が竦んで進めなくなっている観光客も居る。
かなり吊り橋慣れしている者としても、54mの高さというとビル18階分に相当するわけで、安全だと分かっていても大きく揺れるとやはり足が竦む。
そしてその長さ297mは相当なもので、なかなか向こう岸にはたどり着かない。
しかし、中盤にも差し掛かるとさすがに慣れてくるものである。
更に、橋の中心にくるとメインワイヤーが近くに見えるのだが、その太さと頑丈さときたら・・・。
危険など微塵も感じさせず、揺れによる恐怖は薄れ、安心して景観を楽しむことができるのだ。
取材をしたのが夏ということもあり、吊り橋から下を見下ろすと川遊びやバーベキュー、キャンプなどを楽しむ人で賑わっている。
しかし、この開けた空間の気持ち良さときたら・・・。
高さと揺れの恐怖心など慣れてしまえば、心地よい空気と風に周りに広がる高い山々が究極の癒しを提供してくれる!
後半はもはやウキウキしながら渡れるはずだ(ウキウキしても決してわざと揺らさないように!)。
そして、終盤に差し掛かって橋の下を覗くと、河川敷に立ち並ぶ杉林の木のてっぺんが遥か下にあることがその高さを実感させる。
いやはや日本一の田舎吊り橋はやはり王者の貫録を見せてくれた。
渡りきるとそこには・・・
渡りきった向こう岸でも係員が安全確認を行っている。 ここにも注意書きの看板があるのだが、内容が少々違っている。
- この橋は一度に20人以上渡ると危険です。
- 渡橋中にわざとゆすったり、走ったりしないで下さい。
- 混雑する時は監視員が駐在し、一方通行等の渡橋規制を行う場合がありますので、必ずその指示に従ってください。従えない場合は、渡橋を禁止します。
- 観光客が二輪車で橋を渡ることは禁止します。
- つり橋の上では禁煙です。また花火も一切禁止します。
- つり橋での事故等については、一切責任を負いません。
1〜4番までは何故か少しづつ言い回しが違うものの言ってることは同じ。
5番と6番は渡り始めには無かった項目で、「この橋は、通学路です。迷惑のないよう安全にお渡りください。」という項目はこちらには入っていなかった。
渡り終えると「吊り橋茶屋」というお土産屋さんがあって、地元のお土産が沢山売られている。 中には吊り橋のキーホルダーや、吊り橋の絵が入った珍味などもあり、やはり観光吊り橋的な一面もあるんだなぁと実感。 そして、駐車場に戻るにはもう一度渡らないといけないので、強制的に吊り橋のスケールを2度楽しめるという訳だ。 そうは言っても、高いのが苦手な観光客は「え〜!また渡るの〜〜〜!!」と声を上げていたのだった。
Vol.18 静岡逆河内「新逆河内吊橋(無想吊橋)」