ぶんかびとレポート

怪奇!人形がひしめく神社「淡島神社」

境内に人形が犇めく奇妙な神社

 和歌山県の最北端、大阪府との境目の海岸沿いにある和歌山市の加太(かだ)は海の向こうに淡路島とその手前に4島からなる小さな友ヶ島が控えるのどかな港町だ。 周辺にはノスタルジックな気分が味わえる食堂や、海水浴場、なんとも味わい深い町並みなど、とても良い癒しスポットで、休日には近隣から観光客や釣り客が訪れる。 淡路島と本州の間が狭く、その間にある友ヶ島周辺はとても流れが速くて優良な漁場なので、新鮮で美味しい魚介類が楽しめるのだ。

 そんな加太には淡島神社という、全国に1000社以上も点在する淡嶋(あわしま)神社や粟嶋(あわしま)神社、淡路(あわじ)神社の総本社がある。 由緒正しき神社で、婦人病祈願として、婦人病の治療や安産、子授けなどにご利益があることでも有名だ。 婦人病祈願では女性が自身の使用済みの下着を奉納するという珍しい祈願が行われている。 それ以外にも、裁縫などで使う針を奉納することでも有名で、毎年2月8日には針祭が行われている。

 下着の奉納だけでも十分驚くべきことなのだが、この淡島神社、境内には2万体を超える人形が奉納されている。 雛人形や市松人形だけでなく、招き猫やお面まで・・・ありとあらゆる人形が奉納され、境内には沢山の人形がひしめき合っているのだ。 一見、異様な雰囲気と普通の人なら「恐い!」と感じるその見た目から、心霊スポットのような扱いでテレビや雑誌で紹介されたりもしている。 実際、髪の毛が伸びると噂される菊人形も奉納されているという。 今回はそんな淡島神社を紹介しよう。


本殿は朱色の柱が印象的な奇麗な建物。しかしよく見ると両サイドには無数の人形が。


本殿の左側には日本人形がビッシリ。日本人形は恐い印象もあるが、舞を踊る姿の日本人形がこれだけ並んでると圧巻で、美しくもある。


本殿の左側面にも日本人形がビッシリ。そして足元には陶器の生き物もビッシリと並んでいる。


更に奥に行くと鶏、犬、猪、そして七福神の姿まで。神様も人形ということか。


ダルマも奉納されている。みんな左目が入っているので、役目を果たしたダルマなのだろう。

奥の小さな社にもビッシリ

左奥に進むといくつかの小さな社があり、その中や周辺にも人形の姿があった。 そしてそれを見ていると、少しずつなんとも言えない気持ちになってくるのであった。


御神水(ごしんすい)という小さな社。福の神とヒキガエルの置物がある。


更に奥には招き猫が沢山。こうやってみると招き猫にも個性がある。しかし、かわいい表情の招き猫のこういう姿を見ると切ない気持ちになってくる。


結納に使われる高砂人形。夫婦の幸せを見守って来た優しい表情のままここに集まっている。


人形だけではなく、お面まで。


遷使殿(せんしでん)という社。中には・・・・


遷使殿の中には蛙の置物がギッシリ。もの凄く大きいモノもある。


社の床の部分には小さい蛙がギッシリ。使い神である蛙に、本殿でお願いしたことをしっかり伝えてくださいという意味があるのだそうだ。


更に奥には紀文稲荷社というお稲荷さんもある。ここにも小さい陶器のお稲荷さんがいっぱい。よく見ると狛犬っぽいのが一匹。


本殿に戻って中を覗くと、市松人形や雛人形が居る。


そしてやはり印象的なのが本殿の右側にある市松人形。


今にも動き出しそう。穏やかな表情で静かに佇んでいる。

 

人形に宿る魂

 よく人形には魂が宿っているなどと言うが、なんとなく解ったような気がした。 ここに集まっている人形は全て何処かの家庭でその生活や子供の成長を見守り、そして大切にされてきたのだろう。 そして、役目を終えてここに奉納されているのである。 一見には「怪奇」の一言だが、良く見ているとやはりその魂の切なさが伝わってくるではないか。 そしてこの淡島神社、3月3日の雛祭りには、神事として雛流しを行う。 神社の前の海岸から、二艘の船で雛人形を神の国へと送るのだと言う。 人形に残る思い出や思いを胸にその最後の姿を見送るのだ。 やはり人形に宿っている魂を感じずにはいられない。 少なくとも「日本人形=恐い」という印象は無くなったのであった。

おまけ「入り口の食堂」

淡島神社の入り口にはお土産屋を兼ねた食堂が並んでいる。 そこがまたレトロそのもの! ノスタルジックな気分に浸りながら、新鮮な魚介類を楽しめる。 淡島神社に行ったら是非立ち寄って軽く食事をしよう。


参道に立ち並ぶ食堂


珍しいワカメソバ。

文/写真:松端秀明